絵で見る創意くふう事典 》 改善改革探訪記 》 093 | ||
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ネット版 改善改革探訪記 93 | ![]() |
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ある肥後象がん師の話 | ||
■刀の鍔(つば)や火縄銃の銃身を金銀で装飾する象がん技術が熊本で発達した。現代はそれが装身具や装飾品に生かされている。 ■肥後象がん師、坊田透さんにその技を見せてもらった。松脂を練りかためた台の上に熱くした鉄片を置いて固定し、タガネで布目状に微細な切れ込みを入れ、その上から金銀の板を置いて鹿の角で叩く。針の山のような切れ目に金銀が入り込み、取れなくなる。表面を苛性ソーダで洗い、煤をまぜた油で拭いて完成。細かい、根気のいる仕事だ。 ■坊田さんは戦後台湾から引き揚げてきて母方の祖父のいる熊本で少年時代を過ごした。農業を営んでいた祖父は戦争で長男を亡くし孫の坊田さんを後継ぎにと考えたらしい。しかし絵や工作が好きだった坊田さんは、その期待を振り切るようにして象がんを学び、肥後象がん師となった。企業団体のバッジなどを作って生活費を稼ぎ、残りの時間を自分の作品づくりに充てている。昔からの形をまねるだけでは伝統は守れないと、黒く仕上げる鉄地の仕上剤を工夫し、赤や緑に仕上げる技術を確立して評判をとった。 ■「自分にはこの道しかなかったと考えていらっしゃいますか?」との問いに「いや、何度も辞めたいと思ったのです。しかし、祖父と母の期待を振り切ってこの道に入ったから途中で放り出せなかった。結局はこの道しかなかったということかもしれません」と答えた。必死になって取り組んだ人の作品には人を引き付ける力がある。しかし、必死になるきっかけは人それぞれで、そこにその人の人生がある。 |
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鉄片に金の板を載せる |