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ネット版 改善改革探訪記 79 BACK NEXT
御津山からの眺め

豊川市の西端、三河湾を望むところに御津山(みとやま)がある。高さ100mに満たない小山だが、眼下に三河湾が見下ろせ、その向こうに知多半島がかすんで見える。海の手前は絵のような田園風景で、おもちゃのような16両編成の新幹線の上りと下りがすれ違う様子が手に取るように見える。鉄道ファンには貴重なスポットであるらしい。

山頂に呑龍(どんりゅう)という料理旅館がある。ご主人は旧蒲郡ホテルに付属した常盤館という有名な料理旅館で修業した人で、40数年前に蒲郡ホテルの経営権が西武に移って蒲郡プリンスホテルになったとき、常盤館の廃業が決まり、それを機にここ御津山に自分の店を作ろうと思い定めたという。そのときの苦労談を女将の波多野征矢子さんが語ってくれた。

山の上まで電気や水を引くのは並大抵のことではなかったようだ。電力会社は自費で15mに1本ずつ電柱を立てることを要求したし、水道は山頂まで引く代わりに通常の3倍の料金を支払わねばならなかった。ご主人が描いた図面通りの建築を引き受けてくれる業者を見つけるのも大変だった。ようやく一人の大工さんを見つけたが、十分な支払いができず、女将さんはその人に教わりながらこまい(竹の下地)を組み、赤土をこねて自分でその上に塗ったという。

今は大勢のお客さんが訪れるそのロビーで、美しい景色を眺め、お茶をいただきながら、ここにも一生懸命に生きてきた人がいると思った。
御津山からの眺め