改善の事典  》 第11章 IT化  》 解説 「IT化」とは
 
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 解説   「IT化」とは


1970年代にオフィスにはじめてコンピュータが入ったとき、それまで人が手で行っていた計算やデータ仕分けの仕事をコンピュータに置きかえることを「OA(Office Automation)化」と呼びました。1990年代に入って、1人に1台行きわたったパソコンで、計算やデータ処理のほか文書作成やネットを使った情報のやりとりを行なうようになってからは「IT(Information Technology)化」と呼ばれるようになりました。

2000年前後からブロードバンド化が始まりました。電話回線による情報通信が、ADSL、光通信、ケーブルテレビ回線などに代わり、さらに携帯電話基地局が次々設置され、有線・無線で大容量の情報をやり取りできるようになって、多くの人がパソコン、スマートフォン、タブレット端末などで、インターネットと常時接続し、情報をやり取りするようになりました。海外ではこれを、コンピュータの通信機能を強調してICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)と呼ぶことから、最近では「IT化」と並んで「ICT化」という言い方が増えています。

IT化ないしはICT化は、事務が人力で行われていた時代には想像もできなかったほど膨大なデータ処理を可能にしました。従業員1人ひとりの仕事の進捗が画面上でいつでも確認できるようになり、トップはそれを見て自分がいま求める仕事にだけ集中するよう部下に命じることができるようになりました。さらには材料調達から製造加工、物流、販売までのモノの流れを一元的に管理することで、その過程での中間在庫をミニマム化し大幅なコストダウンを可能にしました。また、膨大な顧客データを一元管理することで顧客一人ひとりのニーズに即応した効果的な販売活動が可能になりました。

これによって事務の仕事が大幅に省力化されたほか、管理職の仕事も大幅に削減されました。トップの意思はネットを通じて一瞬で組織全体に伝えられるようになり、社員からも直言できるようになったからです。トップの意向を一旦自分で受け止めて自分なりの言葉で下に伝えていた管理職の多くが存在理由を失い、トップの意向に沿って各部門をきちんと方向性づけられる人しか管理職として残れなくなりました。これが組織のフラット化を進め、意思決定の速度を速め、競争を激化させました。

IT化は職場だけでなく、世の中全体を大きく変えました。多くの事務職や管理職が仕事を失ったほか、働く人々は常に監視され管理されることで、裁量の余地が小さくなり、心の余裕を失いました。ネットを使ったコミュニケーションの増加は、会議や出張の機会を減らしただけでなく、人と人とが直接言葉を交わす機会をも減らしてしまい、人と人との結び付きを弱めました。

さらにIT化は、地球上のどこかで起こった出来事について、世界中何処でも同時に情報を得ることを可能にし、それに対応した意思決定を世界中に発信し受信することを可能にしました。このことが貿易の自由化、資本の自由化と相まって、経済のグローバル化を加速しました。資本は世界中を自由に移動し、世界中で最も安い労働力を使ってモノを作り、最も購買力のある人々に売るようになりました。このことが世界中で資本の集中、蓄積を加速し、貧富の格差を広げ、地域活力の格差の拡大させました。

IT化によるこうした事態は、1人ひとりの人間が意図したものではありません。しかし、技術の進歩は人間たちを思わぬ方向に導き、次々と新たな課題を突き付けています。我々は時計の針を元にもどすことはできない。IT化の便利さをさらに追い求めつつ、それと同時に、次第に明らかになってきた新たな課題に対して手を打っていかねばなりません。

この章に掲載した事例は、今から見るとのどかな牧歌的に思えるかもしれません。2000年前後、1人に1台のパソコンが行きわたり、急速に進むIT化に各職場が懸命に対応しようと努力していた当時のものです。


(2015/11/18)

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